大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)46号 判決

一 請求の原因1ないし3の事実については、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。

原告は、審決が本件発明Iと引用例1との相違点(2)(化合物(2)から化合物(3)を製造する工程が、本件発明Iでは、化合物(2)にチオニールクロライドを反応させて化合物(2)´をつくる第一段階と、化合物(2)´に水を加えて加水分解して化合物(3)をつくる第二段階の二段階の工程であるのに対して、引用例1は化合物(2)を加水分解して直接化合物(3)をつくる工程である点)につき、本件発明Iは引用例1の自明の構成要件の変更であるとすることができないとした判断は誤つているとし、本件発明Iの化合物(2)´(Cl3GeCH2CH2COCl)を構成するトリクロゲルマニウムエチルカルボニル基(Cl3GeCH2CH2CO―)は、引用例1の化合物(2)(Cl3GeCH2CH2COOH)の水酸基(―OH)を除く構成基と同一であり、この基の中のトリクロロゲルミル基(Cl3Ge―)は加水分解処理によつて、ゲルマニウムセスキオキサイド

<省略>

を形成することは引用例1に記載されており、化合物(2)´における酸塩化物(―COCl)を加水分解すればカルボン酸(―COOH)になることは引用例2に示されているように自明のことであるから、本件発明Iの化合物(2)から化合物(2)´を経て化合物(3)をつくる工程は、引用例1の化合物(2)から化合物(3)を得る工程に自明の技術的条件の変更を加えたものにすぎず、本件発明Iは引用例1と同一発明である旨主張する。

しかしながら、カルボン酸に塩化物を加えて酸塩化物とし、これを加水分解してカルボン酸とすることが引用例2(成立について争いのない甲第四号証)に示されており、その工程はカルボン酸を得る自明の工程であるということができても、そのことをもつてトリクロロゲルマニウムエチルカルボン酸の塩化物である化合物(2)´を加水分解すれば、目的物質である化合物(3)(カルボキシエチルゲルマニウムセスキオキサイド)が得られるということまで自明のものであるとすることはできない。化合物(2)を加水分解すれば、化合物(2)中のトリクロルゲルミル基(Cl3Ge―)はそれによつてゲルマニウムセスキオキサイド

<省略>

となることは引用例1に記載されてはいるが、それは、化合物(2)のトリクロルゲルミル基部分は加水分解によりゲルマニウムセスキオキサイドとなるということだけであつて、本件発明Iにおける化合物(2)´のごときトリクロロゲルマニウムエチル酸クロライドを加水分解すれば、そのトリクロルゲルミル基部分がどうなるかということは何ら示していないのみならず、引用例1において右のように化合物(2)を加水分解すれば、その化合物のトリクロルゲルミル基部分がゲルマニウムセスキオキサイドとなること自体自明のことであるとは言い得ず(それが自明でないことは原告自身結局においてこれを認めている。)、本件発明Iにおいて化合物(2)´(Cl3GeCH2CH2COCl)を加水分解すれば、それにより(―COCl)の部分はカルボン酸(―COOH)に、Cl3Ge―の部分はそれと同時にゲルマニウムセスキオキサイドになることも自明であるとは言い得ないから、本件発明Iは引用例1の化合物(2)から化合物(3)を得る工程に自明の工程を付加したものということはできない。

原告は、審決の、「引用例2が開示している加水分解反応によつて本件発明Iのトリクロロゲルマニウムエチル酸クロライド(化合物(2)´)が加水分解されたとすると、その生成物はトリクロロゲルマニウムエチルカルボン酸である筈である。」とした点を非難し、右のような認定は化学常識に反する旨主張する。

審決の右認定は、必らずしも正しいものであるとは言えないとしても、その認定は、本件発明Iは引用例1の化合物(2)から化合物(3)を得る工程に自明の工程を付加したものということはできないとする審決の判断に何の影響も及ぼすものではない。

三 右のとおりであり、本件発明Iと引用例1とを同一発明とすることはできないとした審決の判断は結局において正当であり、他に審決にこれを違法として取消すべき点はないから、その取消を求める原告の請求を棄却する。

<編註〕 本件特許発明に関する事項は左のとおりである。

1 特許庁における手続の経緯

被告らは、名称を「生体内の異常細胞電位を変化させてその機能を停止させる作用をもつ化合物の製造法」とする特許第六一六六四七号発明(昭和四三年三月二九日出願、昭和四六年八月二七日登録)(以下「本件発明」という。)の特許権者であるところ、原告は、昭和五三年一一月三〇日、特許庁に対し、右特許の無効審判を請求し、昭和五三年審判第一六三六四号事件として審理されたが、昭和五五年一月九日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月三〇日原告に送達された。

2 本件発明の要旨

(I) トリクロロゲルマニウムとアクリルニトリルとを反応させてトリクロロゲルマニウムエチルニトリルとなしこれを酸を用いて加水分解を行いトリクロロゲルマニウムエチルカルボン酸となした後チオニールクロライドによりクロル化してトリクロロゲルマニウムエチル酸クロライドとなし水を加えて加水分解を行い生体内の異常細胞電位を変化させてその機能を停止させるビス―β―エチルカルボン酸ゲルマニウムセスキオキサイドの製造方法(以下「本件発明I」という。)

(Ⅱ) トリクロロゲルマニウムとアクリルニトリルとを反応させてトリクロロゲルマニウムエチルニトリルとなしこれを酸を用いて加水分解を行いトリクロロゲルマニウムエチルカルボン酸となした後チオニールクロライドによりクロル化してトリクロロゲルマニウムエチルクロライドとなしアンモニア水を作用させて生体内の異常細胞電位を変化させてその機能を停止させるビス―β―エチルカルボン酸アミドゲルマニウムセスキオキサイドの製造方法(以下「本件発明Ⅱ」という。)

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